今回は川崎製鉄→BCG(ボストンコンサルティンググループ)→GE(日本ゼネラル・エレクトリック)そして現在はノバルティスファーマ社長という経歴を持つ、三谷宏幸氏のリーダーシップ論です。
目次
第1章 いつも何かを探していた
第2章 日本と米国、考え方の違い
第3章 経営の理論を学ぶことから実践へ
第4章 企業の成長をドライブする
第5章 外資に勤めるということ
第6章 ジャック・ウェルチに学んだリーダーシップ
第7章 医薬品業界とノバルティス
第8章 これからの日本の役割
経営者が書いた本の中でも、かなり面白く学びのある本だと思います。三谷氏は社会人になるときから、将来は経営者になりたいという強い想いを抱き、経営者になるためにはどんな経験を積めばいいかを常に考えて行動しています。冒頭にこんな言葉があります。
経営者が取るべきアクションの最たるものは何かといえば、従業員を元気づけることであり、コミュニケーションである。経営とは最終的には戦略やプランではなく、人を動かすことこそが経営なのである。
コミュニケーションの重要性は川崎製鉄の現場での経験から学んだものだとご本人も記載していますが、仮にコンサルティング業界の経験しかなければ、このような幅広い感覚は持ち合わせなかったのではと思います。GEでジャックウェルチ氏やジェフリーイメルト氏と渡り合ったことのある三谷氏の強みは、経験に裏づけされた思考の幅広さにあると思います。
この本のいいところは、単にリーダーシップとはこうあるべきものということを論じているのではなく、三谷氏が在籍した企業での経験や失敗談などを通して、経営者から見たリーダーシップについて書かれていることです。三谷氏の経歴を見ればわかる通り、いわゆる外資系が多いのですが「外資系の話だから」といった違和感はまったくありません。グローバル展開という言葉が一般的になっている昨今、外資系云々という感覚自体が時代錯誤なのかもしれませんが。
個人的に特に興味深く、参考になったのはGE時代のことを綴った第6章です。いくつか付箋を貼ったところを抜粋して紹介いたします。
とりわけGEで学んだのは「ストレッチ」という考え方である。これは、自分の能力より上の目標を自らが設定して、それに挑んでいくやり方である。こうした行動を繰返すことで、自分の成長に自分で限界を作らず、常に成長を続けていくことができる。
一般的にダメな人間は何か頼まれたときにそれができない理由をまず考える。できる人もここまではできるけれど、これ以上は難しいとつい考えてしまいがち。つまり自分自身で自分に限界を作ってしまうのが人の性癖といえる。すなわちストレッチがないと人は成長しない。
GE在籍時に「ストレッチしなさい」と直接的に教育されたのではなく、ご自身の経験からそのような学びを得たという話しです。私たちの日常でも上司から「ここはこうした方がいいね」と言われたことを、どう受止めるかはその人次第だと思います。伝える側にも責任はありますが、受止める側も真摯に受止め、それを自分の糧とする意識がなければ、このような形で血肉となることはありません。
考え方ひとつとっても、非常にわかりやすい例が記載されています。例えば100mを13秒で走れるランナーが12秒で走るためにはどうするか。ただやみくもに脚力だけを鍛えても早くなれるとは限らない。スタートの瞬発力が弱いからか、スピードに乗れないからか、最後の方で疲れてしまうのか、そういった自分の弱い部分を知った上で、何から手をつけるべきかが始めてわかるというものです。どこから強化していくか順番にプロセスを踏まないと、タイムを縮めることができないというのは、ビジネスの世界においての考え方にも十分応用できます。
社長はどうやって他の人よりも経験値を積んでいるのか、また他の人よりも加速度的に経験や知識をストックしているのか、というのを経営者の本を読むときにいつも疑問に思っていましたが、この本には以下のように書かれていました。
社長になったからといって、急に経験年数を加速化することはできない。みんなと同じ経験則の中で物事を学びながら事にあたっていくしかない。では、どうやってその作業を加速化していくのか。自分として同じ失敗を二度としないように、どうして失敗が起こったのかを後で分析してみるとか、事前に仮説を立てて物事に臨むといったことの重要性を考え始めるようになった。こういう作業によって加速的に習熟曲線をあげていくことができるからだ。
併せて、24時間365日会社のことや、社員のことを考えるプレッシャーと向き合うことが、加速度を高めている理由だと思います。うまく自分の中に取り入れられることもいくつかありますので、繰り返し読んで血肉にしたいと思います。
今回は長くなりましたが、それほど個人的には良書でした。